オルガンリサイタル「音景」ー響き合うかたちー 細川久恵 ☓ 矢部澄翔
リサイタルによせて
音楽の原風景
10 世紀頃のヨーロッパで、キリスト教修道会を中心に広まった建築に、ロマネスクと呼ばれる石造りの教会があります。石に囲まれた空間は、小さな窓から射しこむ光や、堂内の灯によって、神秘的な光と影の造形を生み出します。そしてそこに響く単声の緩やかな祈りの歌は、自然・宇宙の秩序に呼応して、すべてを調和に導きます。その後、音楽は多様な発展を遂げその可能性を広げていきましたが、時代を越えてなお私たちの心を打ち、また癒す作品は常に、根底でこの単純性と統一性に繋がっているのではないでしょうか。
音とかたち
紙と墨をもって自らの身体と精神が世界と向き合う「書」は、また瞑想の行為ともいえます。作者は、静かに流れる時の中で、紙と筆が触れ合う音を聞いています。その動きは、世界と自己の一致を目指す根源的な願望に突き動かされているようです。音とかたちの交差は、互いの輪郭を開放し、響き合い、すべての色彩を内包する「光と影」の世界へと導くでしょう。「細川久恵 オルガンリサイタル 2020」は、響きと光の原点を旅します。